仲間

「もう少しで頂上かな」
「そうだな、時間的には着いてもおかしくない」

周りにはうっすらと赤く色づいた山の木々が多く、否応にも頂上からの眺めを期待させる。
この前の日曜日紅葉特集を見た葉月(はづき)が行きたいと言い出したのが始まりだ。
二人きりで行くのもなんだからと友人の一真(かずま)と葉月の友人の静実(しずみ)さんを誘っていくことになったのだけど、
実際は一真と静実さんをくっつけようという裏の目的があると葉月は言っていた。
ちょうどよくではないけれども、頂上への坂を上る前のかわらで静実さんが疲れきってしまい、一真と休ませることにしたのだ。

「しかしうまく二人きりにできたね」
「もちろんだ、私が静実にああしろと言ったんだからな。そうでもしないと静実は動かないからな」

そういってふふっと笑う葉月。それとともに額から汗が頬を伝い流れ落ちる。僕はナップザックのポケットから新しいタオルを出して渡した。

「ありがとう、君は気が利くな」
「どういたしまして。そっか、やっぱり静実さんはあまり自分から喋るタイプじゃないしね。
 一真もそこらへんは言わないだろうしなー、言わなけりゃ何も伝わらないのに」
「静実も根は明るいんだがな、どうも人見知りでいけない。付き合いだせば一真にもそのことがわかるだろう」
「そうだね……っと、もしかしたらあそこが頂上かな?」
「そうかもしれないな、もう少し頑張ろう」
おそらくあと十メートルも登れば着く。しかし階段とは違ってむき出しの木の根や顔にぶつかりそうな枝を避けながら登るのはかなりの労力を要する。
それでもなんとか登りきった僕たちが見たのは

「山……だね」
「これがいわゆるニセピークというものだな、多くの登山家の心を打ち砕く手ごわい相手だ」
「とりあえず休もうか」
「ああ、そうしよう」

ナップザックを置いて手ごろな岩へと座り込む。もう動けないと言うほどじゃないけど、足が張ってパンパンだ。
明日は一日寝ている事になるだろうな。

「ほら、こっちを見てみろ」

葉月の指差した方を見るとそこには見事な紅葉の景色が広がっていた。
緑、黄、赤、と高さによって違う色のグラデーションは本物でないと味わえない感動を僕にもたらした。

「うわぁ……すっごいねぇ……」
「私もそう思う、それに君と二人で見れるならばこれ以上のことはない」
「はは、ありがと」
「信じてないのか?言わなければ伝わらない、そう言ったのは君だろう?」

いつになく厳しい葉月の口調、顔を見るととても真剣な表情をしていた。

「確かに紅葉は見たかったが、それよりも何よりも君と二人きりになりたかった、そして願いが叶った。
 雨の予報も外れたし祈ったかいがあった」
「うん、本当に晴れてよかったよ」

僕にはそれしか言えない、それ以上のことを口にできるほど自分に自信なんて持っていない。

「私は、君を、愛している」

南から西へと傾きつつある太陽を背に葉月はそう言った。
その頬が少し赤くなっていたのは紅葉のせいだろうか。

=====

「すまん、待たせたな。退屈だったろ?」
「いや、そうでもなかったよ」

2時間ほど遅れて一真と静実さんが追いついた。

「座る前に見てみろ、すばらしい景色だぞ」

葉月が一真と静実さんに向かって言う。

「すっげぇなー!!」
「うん……すごいね……」

そう言って肩を並べる二人の手はしっかりと繋がれている。

「うまくいったみたいだね」
「これは……私たちも負けてられないぞ!」
「え!?ちょ、ちょっとはづ、むぐっ」

負けてられない、そう言うやいなや葉月は僕の頭を抱え込み、気づいたら僕と葉月はキスをしていた。
時間にして30秒、体感時間では30分はゆうに超して葉月は口を遠ざけた。

「君はファーストキスか?」
「う、うん。そうだけど」
「私もだ」

そう言って葉月は笑った。今まで僕の見たことの無い、そして世界で一番の笑顔に違いないと僕は思った。

=====

「これからどうする?予定よりかなり遅れちまってるけど」
「今から頂上に向かうには時間が無いな、幸いここは峠だから
 こっちから降りれば登ってきた道より早く降りれるだろう」
「ごめんね…私が体力なかったから…」

少ししょげた感じの静実さん。

「何を言う、むしろ静実のおかげで全てうまくいったし、次の楽しみも出来たじゃないか」
「次のって何?」
「今日は4人できたが、次に来る時はお互い二人きりだ。静実にはちゃんと報告入れてもらうからな」

僕ら4人しかいない山の中、皆で大きな声で笑う。
これからもずっと4人で楽しくやっていけるんだろうな。


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